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福岡高等裁判所 昭和40年(行コ)15号 判決 1966年4月19日

控訴人 戸上六二郎

被控訴人 国

訴訟代理人 高橋正 外五名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

控訴人は郵政事務官として熊本郵便局貯金課に勤務していた者であるが、被控訴人は昭和二六年三月二七日控訴人を国家公務員法第七八条第三号の「その官職に必要な適格性を欠く」者に該当するとして免職処分にしたことは当事者間に争いがない。

控訴人は右免職処分は無効であると主張し、被控訴人は右免職処分は連合国最高司令官の指示に従つてなしたもので有効であると抗争する。被控訴人が、連合国最高司令官の昭和二五年五月三日の声明および同年六月六日付、同月七日付、同月二六日付、同年七月一八日付吉田内閣総理大臣宛各書簡の趣旨に沿つた同年九月五日の閣議決定および同月一二日の閣議了解にもとづいて、控訴人を共産主義の同調者と認めて、国家公務員法第七八条第三号の規定のより免職処分に付したという被控訴人主張の事実は、控訴人の明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなす。そして、原審証人赤塚三八の証言および原審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は昭和二三年一〇月頃日本共産党に入党し、本件免職処分当時も同党の党員であつたことが認められる。

前示連合国最高司令官の吉田内閣総理大臣宛書簡は、直接には、日本共産党中央委員の公職からの追放や同党機関紙アカハタおよびその後継紙、同類紙の無期限停刊の措置を指令するものであつて、共産主義者およびその同調者を国家機関から排除すべきことを明示してはいない。しかしながら、連合国最高司令官の前示書簡(特に昭和二五年七月一八日付書簡)による指示は、単に公共的報道機関について共産主義者ないしその同調者を排除すべきことを指令するにとどまらず、その他の重要産業についても同様に指令したものと解されている(最高裁 昭和三五年四月一八日決定 民集一四巻九〇五頁参照)。かように、連合国最高司令官の指示が、その占領政策を達成するための必要な措置として、公共的報道機関その他の重要産業から共産主義者およびその同調者を排除すべきことを指令したものと解すべきである以上、右指示は、国家機関からも共産主義者およびその同調者を排除すべきことを指令した趣旨と解さねばならない。何故なら、占領政策達成のための必要措置として、公共的報道機関およびその他の重要産業から共産主義者およびその同調者を排除すべきであるなら、国家機関からの共産主義者およびその同調者の排除はそれ以上に重要かつ緊急な事柄であるから、連合国最高司令官が公共的報道機関その他の重要産業からの排除を指令しながら、国家機関からの排除は指令せずに放置したということは到底考えることができないからである。したがつて、被控訴人が控訴人を共産主義の同調者と認めて免職処分にしたことは、前示連合国最高司令官の指示に従つたものとして有効であるといわねばたらない。

控訴人は、本件免職処分が憲法第一四条、第一九条に違反するとか、連合国最高司令官の指示は憲法に違反する範囲において無効であるとか主張するが、本件免職処分当時は平和条約発効前であつて、当時日本の国家機関および国民は、連合国最高司令賞の発する一切の命令指示に誠実かつ迅速に服従する義務を負い、わが国の法令は右指示に牴触する限りにおいてその適用を排除されるものであることは、いうまでもないところであるから、連合国最高司令官の指示に従つてなされた本件免職処分について憲法違反を云々するは当らない。

以上のようなわけで、被控訴人がした控訴人の本件免職処分は有効であるから、控訴人の本訴請求は失当である。原判決は理由を異にするが結局正当であつて、本件控訴は理由がない。よつて民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 池畑祐治 佐藤秀 石川良雄)

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